さて、東京都の青少年条例の3月提出分について、いろいろ問題点は指摘されてますけど「基準が曖昧」というものがあります。
それを岐阜の青少年健全育成条例についての判決をもとに少し思ったことをつらつらと。
http://www.cc.kyoto-su.ac.jp/~suga/hanrei/34-3.htmlここを横につけてご覧になっていただければと思います。
さて、岐阜県の判例を見ると、
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「一 全裸、半裸又はこれに近い状態での卑わいな姿態、二 性交又はこれに類する性行為」と定められ、さらに昭和54年7月1日岐阜県告示第539号により、その具体的内容についてより詳細な指定がされている。
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とあります。
これは包括指定に関わる条文の部分(六条の第二項)についてです。
この具体的内容については、第一審判決の所に出てきています。
http://www.cc.kyoto-su.ac.jp/~suga/hanrei/34-1.html-------------------------
一 全裸、半裸又はこれらに近い状態での卑わいな姿態で、次に掲げるものを被写体とした写真
1 女性が大腿部を開いた姿態
2 女性が陰部、腎部又は胸部を誇示した姿態
3 自慰の姿態
4 男女間の愛撫の姿態
5 女性の排泄の姿態
6 緊縛姿態
二 性交又はこれに類する性行為で、次に掲げるものを被写体とした写真
1 男女間の性交又は性交を連想させる行為
2 強姦、輪姦その他のりょう辱行為
3 同性間の性行為
4 変態性欲に基づく性行為
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また、六条の第一項(個別指定に関するものです)で
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著しく性的感情を刺激し、又は著しく残忍性を助長するため、青少年の健全な育成を阻害するおそれがあると認めるときは、当該図書を有害図書として指定する
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とあるわけですが、
昭和五二年五月二五日付の『岐阜県青少年保護条例による審査基準』では
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「内容が著しく性的感情を刺激するもの」とは
(1)男女の肉体の全部又は局部を列状刺激的に描写表現したもの。
(2)性的関係を結ぶに至るまでの方法、過程等を過度に表現しているもの。
(3)成人を対象として性医学を科学的又は人道的観点をこえて、必要以上に不自然に表現しているもの。
(4)著しくせん情的な文書表現をしているもの。
「内容が著しく残忍性を助長するもの」とは
(1)私刑又はごう問を刺激的に描写表現しているもの。
(2)殺人、傷害又は暴行を陰惨な表現をもって描写表現しているもの。
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としています。
(※一次ソース確認してません。岐阜県行けば手に入るっぽい(?)けど……。引用元は「横田耕一 有害図書規制による青少年保護の合憲性 ジュリスト 1989.12.15 No.947 p89~95 」)
補足意見にある通り、これは青少年の知る権利を制限するものです。
なるほど、青少年保護条例で青少年の知る権利を制限する条文に要求されるのは、この程度の明確性なんだなぁと思って、じゃあ、次は東京都の質問回答集(
http://www.seisyounen-chian.metro.tokyo.jp/seisyounen/08_jyoureikaisei_tuika2.html)を見てみましょうか。
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10 条文で、「みだりに」「性的対象として」「肯定的に」などと言っていますが、非常にあいまいではないですか?
条例では、用語を以下の意味で使用しています。いずれも、条例化にあたっては極力、その対象物を明確に絞り込むことが必要である、との考えのもとに用いている言葉です。
○「みだりに」=「正当な理由がなく」
正当な理由とは、例えば、レイプ事件の裁判員裁判において、裁判員の方に被害状況を説明するため、再現写真の代わりに、その被害場面をイラストで書き表す場合などを指します。
○「性的対象として」=「読者の性的好奇心を満たすため」
例えば、ストーリー性が低く、性行為のシーンばかりが頻繁に出てくる、一話、一冊の大部分が性行為のシーンばかりの作品のように、性行為のシーンを「売り」にしていることを指します。いわゆる「エロ漫画」と呼ばれるもののことです。
○「肯定的に」=「不当に“賛美”または“誇張”して」
「不当に賛美」とは、例えば、小学生が「大人との性交を喜んで受け入れている」「大人に対し、性交を誘っている」場面などの表現を指します。したがって、主人公が子供時代にレイプや性的虐待に遭ってトラウマを負っている、という設定における回想シーン等は、含まれません。
また「不当に誇張」とは、性行為のシーンが、ストーリー上不必要なほど強調されたもの、延々と描写されたものや繰り返し描写されたものを指します。
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こんな感じです。
東京都の条例も、勿論きちんと定義されている部分も多い(つか大部分)なのでしょう。しかし、この回答集で示された内容は、岐阜の例で見る明確性に比べると、子どもの作文か!ってレベルに見えます。「みだりに」の部分の例示なんて問題外です。
明確性の点については岐阜判決の補足意見で基準の明確性について触れられていて、
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このように条例そのものでなく、下位の法規範による具体化、明確化をどう評価するかは一つの問題ではあろう。しかし、本件条例は、その下位の諸規範とあいまって、具体的な基準を定め、表現の自由の保障にみあうだけの明確性をそなえ、それによって、本件条例に一つの限定解釈ともいえるものが示されているのであって、青少年の保護という社会的利益を考えあわせるとき基準の不明確性を理由に法令としてのそれが違憲であると判断することはできないと思われる。
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とあります。下位の法規範による具体化、明確化もありえるのは事実です。
しかし、このふざけた質問回答集を「下位の法規範による具体化、明確化」と取るのは不適切だと考えますし、「表現の自由の保障にみあうだけの明確性」という要求には答えていません。
まぁ、比較してといっておいてなんですが、東京都のいう「明確」は常識人の考えるものとは全く異なるということだけは確かで、岐阜の例とは“比較にもならない”と感じます。東京都が12月に出してくる条文は、どのくらい「明確」になっているんでしょうかね。まさか、「みだりに」「性的対象として」「肯定的に」を置き換えただけということはないと信じたいですが。
因みに、途中で引用した
・横田耕一 有害図書規制による青少年保護の合憲性 ジュリスト 1989.12.15 No.947 p89~95
これは、すごいですよ。岐阜の判例をかなりボロクソに言ってます。一度読んでみるといいと思います。ま、ちょっと手に入れるのが大変ですが。横田先生が都条例を批判したらどんだけなんだろうと思いました。